トリチウムと核兵器
原子力
核兵器のうち、原子爆弾は核分裂反応を用い、水素爆弾はその原子爆弾による核分裂反応のエネルギーを用いて核融合反応を引き起こし、強力な威力を発生させることが知られています。
この核融合反応においては水素の同位体である重水素とトリチウム(三重水素)による核融合反応である「D-T反応」が用いられます。またこのD-T反応により、重水素同士の核融合反応である「D-D反応」も生じさせることができます。
重水素を含む水は重水と呼ばれますが、これは天然にもわずかながら存在しているためこれを分離することで得られます。しかしトリチウムは半減期が12.3年ほどの放射性同位体であるため、崩壊によって時間とともに失われてしまいます。
そのため天然には宇宙線による核反応で生成された極微量なトリチウムを除き、殆ど存在していません。トリチウムの生産方法としては原子炉を用いて中性子を重水素に吸収させて核変換によりトリチウムを生成する方法と、金属リチウムに中性子を衝突させることでトリチウムを生成する方法が挙げられます。
しかし重水は中性子を吸収しづらいため、トリチウムが作られづらいのです。そのためリチウムの同位体であるリチウム6に中性子を吸収させることでトリチウムを作り出す方法が一般的に用いられています。
核兵器用のプルトニウムの生産用原子炉としては、核分裂で生じる中性子を効率的に利用でき(中性子経済が良い)、かつ短い期間で運転中にも核燃料を交換できる構造を持つ、二酸化炭素冷却で圧力管型の黒鉛減速炉が広く用いられています。トリチウムの生産用原子炉としても黒鉛炉や、重水を減速材とする重水減速炉が広く用いられます。重水や黒鉛は共に中性子経済が良いため、トリチウム生産とプルトニウム生産を兼ねている場合もあります。
代表的なトリチウム生産用原子炉としては、アメリカのサバンナリバー核施設のK炉や、フランスのマルクール核施設のセレスティンI、II炉、イギリスのウィンズケール炉が挙げられます。

▲米サバンナリバー核施設の重水炉「K炉(K-Reactor)」(Credit:DOE)
中性子照射を受けたリチウムには核変換によって生み出されたトリチウムが含まれているため、これを化学的に溶解させ、分離する方法が取られています。
ちなみに原子炉で照射を受けた重水からトリチウムを単独で取り出すには様々な方法が挙げられます。通常の水である軽水と、重水と、トリチウム水とで沸点が若干異なることを利用し、蒸発と凝集を繰り返すことで濃縮する「水蒸留法」や、超低温において液体水素と液体重水素と液体トリチウムを蒸留させることで濃縮する「水素蒸留法」のほか、「同位体交換法」や「電気分解法」が挙げられます。これらの技術は重水を減速材に用いる原子炉において、その重水を浄化するためにも用いられます。
トリチウムは半減期が短く、また製造コストも高額であり、さらに気体のままでは密度が低いため、水素爆弾に利用する場合は大変扱いづらくなってしまいます。極低温まで冷却して液化する方法もありますが、トリチウム自体の崩壊熱により液体を維持するのが大変難しくもあります。
そのため水素爆弾においては、トリチウムを直接搭載せず、代わりにトリチウム生産用原子炉と同様にリチウムを用いる方法が利用されています。
これはリチウムに重水素を化合した、重水素化リチウムを用いています。重水素もリチウムも安定同位体であるためそのままの状態で保管が可能ですが、これを原子爆弾の強烈な熱エネルギーと中性子線に曝すと核反応を引き起こし、原子炉と同様にリチウムがトリチウムへと変化する反応が起こります。
この起爆の瞬間にリチウムから核反応によって生み出されたトリチウムと重水素が核融合反応を起こすことで水素爆弾はTNT換算でメガトン級の絶大な破壊力を持つのです。

▲W88核弾頭(水素爆弾)の内部構造。第一段(プライマリ)の強化型原子爆弾にトリチウムが、第二段(セカンダリ)に重水素化リチウムが用いられています。
ではトリチウムをそのまま単体で用いる場合というのはどういうときなのでしょうか。それは「ブースト原爆」とも呼ばれる強化型原子爆弾に用いられるのです。
原子爆弾の核分裂は中性子によってその連鎖反応が引き起こされますが、これを重水素とリチウムのD-T核融合反応にもよって生み出される中性子で補うことでさらに核分裂を促進させる事ができます。これにより多くのウランやプルトニウムを核分裂させ、原子爆弾が放出するエネルギー量を向上させることができます。

▲W30核弾頭(ブースト原子爆弾)の構造。
「DEUTERIUM & TRITIUM GAS」と書かれた部分が重水とトリチウムのガスタンクです。
http://www.okieboat.com/How%20nuclear%20weapons%20work.html
前述の通りトリチウムは半減期が短いために定期的な交換が必要となります。トリチウムの崩壊で生み出されるヘリウム3は中性子を吸収しやすいため、これが溜まってきてしまうと威力の向上どころか逆に低下をもたらしてしまう場合もあります。
そのためトリチウムを交換しやすいよう、トリチウムガスと重水素ガスを封入したタンクはプルトニウムのコアから少し離れた場所に設置され、メンテナンスしやすくなっています。起爆時にはこのボンベ内のガスをプルトニウムコア内部に送り込む事で使用可能な状態となります。
トリチウムと重水素の高圧ガスによって原子爆弾の出力が強化されるこのです。こうしてトリチウムは高濃縮ウランや兵器級プルトニウムと同様に重要な核兵器用の核物質として利用されてきたのです。
ちなみにトリチウムの平和利用としては核融合炉の燃料として研究が進められているほか、ベータ崩壊を利用して蛍光物質を励起させて光らせる時計の照明などが挙げられます。
以前に僕が自作した原子力電池もトリチウムを利用しております。
この核融合反応においては水素の同位体である重水素とトリチウム(三重水素)による核融合反応である「D-T反応」が用いられます。またこのD-T反応により、重水素同士の核融合反応である「D-D反応」も生じさせることができます。
重水素を含む水は重水と呼ばれますが、これは天然にもわずかながら存在しているためこれを分離することで得られます。しかしトリチウムは半減期が12.3年ほどの放射性同位体であるため、崩壊によって時間とともに失われてしまいます。
そのため天然には宇宙線による核反応で生成された極微量なトリチウムを除き、殆ど存在していません。トリチウムの生産方法としては原子炉を用いて中性子を重水素に吸収させて核変換によりトリチウムを生成する方法と、金属リチウムに中性子を衝突させることでトリチウムを生成する方法が挙げられます。
しかし重水は中性子を吸収しづらいため、トリチウムが作られづらいのです。そのためリチウムの同位体であるリチウム6に中性子を吸収させることでトリチウムを作り出す方法が一般的に用いられています。
核兵器用のプルトニウムの生産用原子炉としては、核分裂で生じる中性子を効率的に利用でき(中性子経済が良い)、かつ短い期間で運転中にも核燃料を交換できる構造を持つ、二酸化炭素冷却で圧力管型の黒鉛減速炉が広く用いられています。トリチウムの生産用原子炉としても黒鉛炉や、重水を減速材とする重水減速炉が広く用いられます。重水や黒鉛は共に中性子経済が良いため、トリチウム生産とプルトニウム生産を兼ねている場合もあります。
代表的なトリチウム生産用原子炉としては、アメリカのサバンナリバー核施設のK炉や、フランスのマルクール核施設のセレスティンI、II炉、イギリスのウィンズケール炉が挙げられます。

▲米サバンナリバー核施設の重水炉「K炉(K-Reactor)」(Credit:DOE)
中性子照射を受けたリチウムには核変換によって生み出されたトリチウムが含まれているため、これを化学的に溶解させ、分離する方法が取られています。
ちなみに原子炉で照射を受けた重水からトリチウムを単独で取り出すには様々な方法が挙げられます。通常の水である軽水と、重水と、トリチウム水とで沸点が若干異なることを利用し、蒸発と凝集を繰り返すことで濃縮する「水蒸留法」や、超低温において液体水素と液体重水素と液体トリチウムを蒸留させることで濃縮する「水素蒸留法」のほか、「同位体交換法」や「電気分解法」が挙げられます。これらの技術は重水を減速材に用いる原子炉において、その重水を浄化するためにも用いられます。
トリチウムは半減期が短く、また製造コストも高額であり、さらに気体のままでは密度が低いため、水素爆弾に利用する場合は大変扱いづらくなってしまいます。極低温まで冷却して液化する方法もありますが、トリチウム自体の崩壊熱により液体を維持するのが大変難しくもあります。
そのため水素爆弾においては、トリチウムを直接搭載せず、代わりにトリチウム生産用原子炉と同様にリチウムを用いる方法が利用されています。
これはリチウムに重水素を化合した、重水素化リチウムを用いています。重水素もリチウムも安定同位体であるためそのままの状態で保管が可能ですが、これを原子爆弾の強烈な熱エネルギーと中性子線に曝すと核反応を引き起こし、原子炉と同様にリチウムがトリチウムへと変化する反応が起こります。
この起爆の瞬間にリチウムから核反応によって生み出されたトリチウムと重水素が核融合反応を起こすことで水素爆弾はTNT換算でメガトン級の絶大な破壊力を持つのです。

▲W88核弾頭(水素爆弾)の内部構造。第一段(プライマリ)の強化型原子爆弾にトリチウムが、第二段(セカンダリ)に重水素化リチウムが用いられています。
ではトリチウムをそのまま単体で用いる場合というのはどういうときなのでしょうか。それは「ブースト原爆」とも呼ばれる強化型原子爆弾に用いられるのです。
原子爆弾の核分裂は中性子によってその連鎖反応が引き起こされますが、これを重水素とリチウムのD-T核融合反応にもよって生み出される中性子で補うことでさらに核分裂を促進させる事ができます。これにより多くのウランやプルトニウムを核分裂させ、原子爆弾が放出するエネルギー量を向上させることができます。

▲W30核弾頭(ブースト原子爆弾)の構造。
「DEUTERIUM & TRITIUM GAS」と書かれた部分が重水とトリチウムのガスタンクです。
http://www.okieboat.com/How%20nuclear%20weapons%20work.html
前述の通りトリチウムは半減期が短いために定期的な交換が必要となります。トリチウムの崩壊で生み出されるヘリウム3は中性子を吸収しやすいため、これが溜まってきてしまうと威力の向上どころか逆に低下をもたらしてしまう場合もあります。
そのためトリチウムを交換しやすいよう、トリチウムガスと重水素ガスを封入したタンクはプルトニウムのコアから少し離れた場所に設置され、メンテナンスしやすくなっています。起爆時にはこのボンベ内のガスをプルトニウムコア内部に送り込む事で使用可能な状態となります。
トリチウムと重水素の高圧ガスによって原子爆弾の出力が強化されるこのです。こうしてトリチウムは高濃縮ウランや兵器級プルトニウムと同様に重要な核兵器用の核物質として利用されてきたのです。
ちなみにトリチウムの平和利用としては核融合炉の燃料として研究が進められているほか、ベータ崩壊を利用して蛍光物質を励起させて光らせる時計の照明などが挙げられます。
以前に僕が自作した原子力電池もトリチウムを利用しております。