北朝鮮の水爆実験について ~熱核兵器とブースト原爆~

核兵器
01 /11 2016
先日北朝鮮が4度めと言われる核実験を実施したと報じられました。

その時に公表された内容を元にツイッターに色々書いてたんですけど、
こちらのトゥゲッターに纏めていただきました。ありがとうございます。

北朝鮮の「水爆実験」についての原子力魔法少女ともにゃんさんの見解
http://togetter.com/li/922319


とりあえず水爆がどういうものか、本当に北朝鮮が開発し得るものなのか、ちょっと考察してみました。
水素爆弾(熱核兵器)と呼ばれるものは、その起爆に原子爆弾が用いられます。

そのため核実験を行う際には原爆であろうが水爆であろうがどちらにせよ、原爆が爆発するという事になります。そしてその原子爆弾を炸裂させるための核物質としては、高濃縮ウラン(HEU)か兵器級プルトニウム(WG-Pu)が用いられます

しかしながら、北朝鮮がどこから4回も核実験できるような、いわゆるその有意量(核兵器を作るのに必要な量)の高濃縮ウランや兵器級プルトニウムをどうやって手に入れたのかはよくわかりません。輸入したのか、自分たちで製造したのか…

高濃縮ウラン使用の可能性としては2015年夏ごろの時点で北朝鮮はウラン濃縮施設が稼働させてるっぽいです。プルトニウムを使う場合は、原子炉でウランからプルトニウムを生成した後に再処理施設によってプルトニウムを単体で抽出する必要があります。またウランならそこそこの濃縮度でもインプロージョン型なら核爆発を起こせなくもありません。

大規模な濃縮施設を必要とする高濃縮ウランと、再処理技術を必要とする兵器級プルトニウムでは、どちらもそれぞれ高度な技術力を必要としますし、これまでの核実験では北朝鮮はプルトニウムを用いた事もあるため、どちらを使用したのかは核実験直後には不明です。

しかしウランを使ったかプルトニウムを使ったかは大気放出された核分裂生成物の割合で判ります。これは核分裂収率と呼ばれるもので、同位体によって核分裂した際に生じる核分裂生成物(FP)の物質の割合が変化するという性質があるため、検出された放射性物質の割合から原子爆弾に用いられたのがウランかプルトニウムか判別することができます。

そのため米軍の大気収集機WC-135「コンスタントフェニックス」においては飛行中に大気サンプルを取得し、放射性物質が含まれていた場合にはその割合からどういった原子爆弾が用いられたかを伺い知ることができます。同様の大気サンプリング能力を持つ航空機として、航空自衛隊の「T-4」練習機に集塵ポッド搭載したものもあります。

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▲米空軍の大気収集機WC-135「コンスタント・フェニックス」

WC-135は大型の航空機であるため、機内に様々な分析装置を搭載することが可能であり、そのため地上に持ち帰らなくても、その場での分析ができるのが特徴です。収集された放射性物質の中には半減期が短く、すぐに崩壊してなくなってしまうものもあるため、出来る限り早く分析を行うことが望まれるため、この点はWC-135に軍配が上がります。

WC-135Wの機内は機密とされているらしく、公開されている写真もありませんが、恐らくガンマ線スペクトル分析器などの核種同定用機材が搭載されてるはずです。

今回の核実験で使用されたのがプルトニウムであった場合、後述しますが「ブースト原爆」と呼ばれる、核融合反応によって生じる中性子で核分裂反応を増大させるというタイプの核兵器に必要なトリチウムを生産する能力も持っている可能性があります。


水爆の仕組み


北朝鮮の核実験、いわゆる核融合兵器であったとして、考えられるのはフルスケールの「熱核兵器」か「ブースト型原爆」かのどちらかという事になりますが、恐らくブースト型原爆なんじゃないかと言われてるようです。一般的に水素爆弾と呼ばれるものは「熱核兵器」と言われますが、巨大なものではTNT爆薬に換算して数メガトンというような莫大な破壊力を持ちます。

こうした熱核兵器核融合燃料に重水素化リチウム(LiD)が使われてます。重水素は天然に僅かながら存在するのを取り出し、リチウムはリチウム6という同位体をCOLAX法と呼ばれる水銀アマルガムを使った化学分離によって濃縮しています。しかしながらこれらは技術的にも結構大変です。

熱核兵器においては、原子爆弾が炸裂した際の高温による軟X線の黒体放射が重水素化リチウムを覆うタンパーに照射されると表面の昇華に伴う推進効果によって爆縮されます。

同時に金属プルトニウムのロッドが超臨界となって発熱、重水素核融合を引き起こしつつ、発生した中性子でリチウムからトリチウムを生成、そのトリチウムが重水素と核融合することで爆発的威力を発生させるという仕組みです。

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▲熱核兵器が炸裂するまで

リチウム濃縮技術の他に核融合点火用のプルトニウムが必要だったり、何より原子爆弾から重水素化リチウムをX線で「放射爆縮」させるシステムが非常に複雑なので初っ端から成功させるのは中々難しいかと思います。開発規模からしても多分ムリだと思われます。

北朝鮮の地下核実験で起きた人工地震がマグニチュード5だったそうですが、過去最大の地下核実験である5メガトンの熱核弾頭、「W71」核弾頭を使った「カニキン」実験ではマグニチュード7を記録したこともあります。

北朝鮮の核実験、地震がM5ということで核出力5メガトンで地下2キロからM7の地震を起こしたカニキン実験と比較すると単純計算で威力は約千分の一

深度や地盤の具合でも変動するので何とも言えませんが、数キロトン程度と予想されるならば水爆と言える程ではなさそうです。

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▲マグニチュード7の地震を引き起こした「W71」核弾頭を利用した「カニキン」地下核実験

逆に出力が数キロトン程度の水爆というと中性子爆弾などが一応該当します。アメリカの「W66」とか。
発生する中性子の量に対する核分裂量をコントロールして威力を下げる代わりに放射線量を増大させますが、北朝鮮はそこまでやってる気配もないです。

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▲核出力は数キロトンの中性子爆弾の構造を持つ「W66」核弾頭を搭載した弾道弾迎撃ミサイル「スプリント」


ブースト原爆とは?

一方の「ブースト型原子爆弾」って何ぞや?と言いますと、原子爆弾の炸裂で核融合を起こす所は同じですけど、これは「核融合で発生する中性子を核分裂の促進」に使う兵器であり、核融合反応そのものは直接威力を発生させない、というものです。水爆ほどでないものの通常原爆の倍以上の威力を持ちます。

ブースト型原子爆弾の構造は比較的簡素で、原子爆弾の内部に液化または気化させた重水素やトリチウムを充填しておくというものです。

質の悪いプルトニウムで過早爆発が起きたり、ウランの濃縮度が低かったりすると、十分な核出力が得られませんが、この「核融合で、核分裂を促進できる」というブースト型原子爆弾のシステムは、低品質な核物質のせいで低くなる威力を補完できる可能性もあります。

「水爆」と比較して「ブースト原爆」なら比較的容易に核融合反応を利用できるというわけです。極端な話、原子爆弾のすぐ横に重水素とトリチウムの液体やガスを配置さえすれば、原爆の炸裂時に核融合反応を起こし、その中性子で原爆の核分裂反応がさらに促進され、威力が大きくなります。

つまりコンパクトな設計にしたり、地味に質の悪い核物質を使っても、核融合ブーストによって、そこそこの威力を持つ核兵器ができるので、この辺はちょっと脅威かもしれません。ブースト技術で半ば強制的に核分裂を起こしてそれなりの出力が出せるかもしれない、ということです。これは恐らく高威力核兵器というより、弾道ミサイルに乗っかる小型核弾頭の開発が主目的かなと思います・*・:≡( ε:)

原爆は小型化するほど効率が悪くなる傾向にありますが、ブースト技術でそれを補えるようになると、弾道ミサイルに乗っかる実用的な核弾頭ができちゃうかもしれません。もちろんブーストが作動する程の核爆発を最初に起こす必要はありますけども。核融合を起こすにはある程度厳しい条件があります。

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▲ブースト型原子爆弾の構造を持つ、タロス艦対空ミサイル用の核弾頭「W30」

ブースト型原子爆弾にせよ水素爆弾にせよ、デカくて大威力の核兵器も当然実現できますが、どちらかと言うと最近は「小型でも十分な威力が得られる」というメリットが大きいとされてます。デカくても積めるものが無ければ意味がないのですし、小さいと運用の面でも楽です…・*・:≡( ε:)

最近のB61核爆弾では重量320キロで威力は最大340キロトンを実現しています。長崎に投下された「ファットマン」が重量4.6トンで威力が21キロトンであるのに対し、ブースト原爆と水爆の技術を組み合わせる事で小型・高威力を実現してます。

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▲核爆弾「B61」


ブースト原爆に使用する核融合燃料は、反応の起こしやすさから、重水素とトリチウムの混合物が理想ですが、まとまった量のトリチウム生産は少し大変なので、重水素だけでもある程度核融合反応を起こせます。あとブースト原爆は核融合燃料の量を調節することで威力を変えられる可変出力核兵器の技術でもあります。

北朝鮮がやったのはあくまでも「実験」であるので、もしかしたら低い威力ながらブーストに関するデータを入手しちゃったりしてるかも?という感じです。2008年頃の時点で北朝鮮は比較的小型な核兵器の設計図を入手してるようですし、そのための実験かもしれません。ホントにわかりませんけど。


トリチウム生産

さて、問題はブースト原爆において、かんじんの核融合を起こす燃料となる物質をどうやって生産してるか、あとその能力があるか、という事です・*・:≡( ε:)

核兵器で使われる核融合反応では重水素同士による「DD反応」と、重水素とトリチウムによる「DT反応」が起きますが、トリチウムを使ったほうが反応が起こしやすいです。

重水素は天然にも僅かにあるのでそれを抽出すれば良いですが、核融合を起こしやすいトリチウムは放射性物質なのでまとまった量を手に入れるには人工的に作る必要があります。

トリチウムを作り出すには原子炉などでリチウムに中性子を吸収させてその核反応で作るのですが、莫大な量の核融合反応を引き起こさせる熱核兵器だと大量のトリチウムが必要です。なので水爆では爆発の瞬間に内蔵されたリチウムから起爆時に原爆(プライマリ)が炸裂した際の核反応でトリチウムをその場で生産してます。低温で液化して保管しなくて良いので「乾式水爆」って呼ばれます(˘ω˘)

一方、ブースト原爆の場合は重水素とトリチウムを混合した高圧ガスを利用するので、あらかじめ原子炉でリチウムから製造する必要があります。できるだけ中性子を照射しやすい原子炉が適しているので、原子爆弾用の兵器級プルトニウム生産用の原子炉が使えます。

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▲アメリカのサバンナリバー核施設で運転されていたトリチウム生産用原子炉「K炉」

中性子を照射したリチウムからトリチウムを分離する技術などは必要になりますが、プルトニウムを使用した原爆を作れる場合、ブースト原爆に必要なトリチウムも作れる可能性があるということです。原子炉形式としては黒鉛炉や重水炉のほうが向いてはいます。

一方アメリカでは運転終了したトリチウム生産用の原子炉の代替手段として、原子力発電所の商用軽水炉によるトリチウム生産が検討されてたりします。兵器級プルトニウム製造時のように核燃料の「燃焼度」が特に問題にならないためです。

もし北朝鮮が何らかの原子炉をしばらく稼働させてたとしたら、トリチウムを微量ながら製造できてたかもしれません。あくまでも可能性が微レ存とかいうアレですけど・*・:≡( ε:)
あと陽子加速器での核破砕を使った中性子でも作れなくはないですがアメリカが検討してた程度ですし多分無理です。


おまけ

トリチウムは放射性物質なので放っておくと気付いたらヘリウムに変わります。
このヘリウムはヘリウムの中でも非常に貴重なヘリウム3というもので、核兵器用トリチウム生産施設や核兵器自体から取り出されたヘリウム3は、超伝導技術にも関わる超低温物理学の分野で活用されています

一般的なヘリウム4はボース粒子というものなんですけど、ヘリウム3はフェルミ粒子というもので、この二種類の粒子は超流動や超伝導という状態が引き起こされるまでの過程がそれぞれ違います。
なので核兵器のスピンオフというか副産品であるヘリウム3がそうした現象の研究に活用されてます★
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ともにゃん

宇宙開発や原子力が大好きな魔法少女(文系成人男子)です。同人サークル「東方旅客鉄道」「隙間科学研究所」の中の人。絵描いたり同人誌書いたり。たまに女装コスプレイヤー。 人工衛星・宇宙探査機/原子炉・原子力電池/核兵器・軍事(現代兵器)/ゴスロリ女装/自作PC/まどマギ/東方/無線/バイク/鉄道/創作など。日本原子力学会員

88年生まれ
三重県出身 東京都在住