北朝鮮が公開した「水素爆弾」の構造に関する考察

核兵器
10 /05 2017
先月、北朝鮮が再び核実験を実施し、大きなニュースとなりました。

そして、この核実験の直前に北朝鮮は「水素爆弾」としてある画像を公開していました。
ぱっと見るとメタリックなピーナッツにしか見えませんし、北朝鮮側も画像以上に詳細な情報を開示したりはしませんでした。

北朝鮮が公開したこの「水素爆弾」がどういうものであるのか、ちょっと考察してみたいと思います。

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▲北朝鮮が公開した水素爆弾の画像


この水素爆弾のような何かは、球体2つで構成されており、複数のケーブルが見える事から多分インプロージョン型のプライマリ(原爆)を使用、またセカンダリ(核融合燃料)に重水素化リチウムを使った「乾式水爆」だと思われます。

水素爆弾とは、原子爆弾が利用する核分裂エネルギーに加えて、水素同位体による核融合エネルギーを用いた兵器を指します。核融合反応を起こすためには、非常に高いエネルギーが必要となるため、必然的に原子爆弾を内蔵していることになります。原子爆弾を用いずに核爆発を起こせるという水素爆弾は「純粋水爆」と呼ばれていますが、現状では原子爆弾よりも高いエネルギー密度を持って核融合反応を引き起こすことのできる「エネルギードライバー」は存在しません。

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▲一般的な水素爆弾(熱核弾頭)の構造(http://nuclearweaponarchive.org/Usa/Weapons/W87.html

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▲北朝鮮の水素爆弾の外観

この水素爆弾は球体を2つくっつけたピーナッツ状をしていますが、2つある球体のうち、片方が原子爆弾である「プライマリ」、そしてもう片方が核融合燃料を内蔵した「セカンダリ」であると考えられます。

・プライマリについて 

水素爆弾に内蔵された原子爆弾はまず最初にそれが動作する必要があるため、「プライマリ」と呼ばれています。恐らく写真左手側が、プライマリ側であると思われます。こちら側に複数のケーブルと、黒い円筒形の機器が備え付けられているのが見えます。

プライマリは原子爆弾ですが、核爆発を起こすためにはプルトニウムなどの核分裂性物質を周囲から高性能爆薬を用いて内側へ向かって圧縮する「爆縮」を行う必要があります。核分裂性物質を均等に爆縮するために、高性能爆薬の点火は周囲から一斉に、正確に行われる必要があります。高性能爆薬の精密な点火を実現するため、点火には電気的な点火を行う雷管が用いられます。古くからは「起爆電橋線型雷管」が用いられてきましたが、これは大電力を細い金属ワイヤに流すことでプラズマを発生させ、それによって爆薬の点火を行うというものでした。非常に正確な起爆が可能になる一方、大きなパルス電源が必要になるというデメリットがあります。この電源には熱電池とコンデンサを組み合わせたものが使用されます。

「起爆電橋線型雷管」の改良型として、「スラッパー式起爆雷管」と呼ばれるものもあります。これは金属ワイヤに大電流を流してプラズマを発生させる代わりに、薄い金属箔に大電流を流し、そのプラズマで内蔵されたペレット状の爆薬に点火、そこから爆縮レンズの爆薬に点火するという仕組みです。より低い電源電圧で駆動が可能で、電源装置を小型化できるというメリットがあります。しかし、北朝鮮のこの水素爆弾の場合、ピーナッツの後ろにあるタルのような装置が熱電池などを内蔵した機器だと思われますが、これが本体と比べてかなり大きいため、従来型の起爆電橋線型雷管が使用されているのではないかと思われます。

爆薬の起爆はこうした電気雷管によって正確に行うことが可能ですが、爆縮された核分裂性物質の核分裂反応を開始させるためには、最初に中性子を発生させる必要があります。これは「外部中性子源(ENS)」と呼ばれており、トリチウムを吸蔵させた合金に対して、小型の静電加速器によって重水素イオンを衝突させることで、小規模な核融合反応を起こさせるというものです。この核融合反応はD-T反応とよばれ、反応と同時に中性子が発生します。この中性子がプライマリの核分裂連鎖反応を開始させるための「火種」となるのです。写真の黒い円筒形の装置はこのENSである可能性が高いと思われます。

・プライマリのブーストについて

プライマリは原子爆弾ですが、起爆時に発生するエネルギーや中性子を増大させるために「ブースト」と呼ばれる技術を使うことが多くあります。プライマリの威力が大きいほど、核融合燃料である「セカンダリ」の起爆を効率的に行えるため、水素爆弾では基本的にこの「ブースト」技術を使用することが多いです。

ブーストは重水素とトリチウムの混合ガスが利用されます。このガスは、プライマリ内部の中空構造の核分裂性物質に充填され、プライマリが核爆発を起こしたタイミングで核融合反応(D-T反応)を引き起こします。この核融合によって発生する熱エネルギーは小さく、核兵器の威力そのものを直接向上させるわけではありません。しかし、同時に発生する高速中性子が核分裂性物質の核分裂をさらに促進させることができます。ブースト技術を使用することで、使用しない場合と比較すると倍程度の威力向上が見込めるとされています。

混合ガスは「リザーバ」と呼ばれる圧力容器に充填されており、起爆直前にプライマリに注入される仕組みです。わざわざ最初からプライマリに入れておかないのは、トリチウムに寿命があるためです。トリチウムは半減期が約12年ほどの放射性物質であり、置いておくだけで次第に無くなってしまいます。そのため基本的に「いつ使うかわからない」核兵器においては、定期的なガス交換を行いやすいよう、あえて別のところに貯蔵していたりするのです。しかし北朝鮮のこれの場合、そのブースト用のリザーバが水爆本体の近くに見当たらないため、本体内部にあるのかどこにあるのかが気になります。

・セカンダリについて

また、水素爆弾において、その「セカンダリ」である核融合の燃料となるのは「重水素」と「トリチウム」の二種類の水素同位体が用いられますが、これらは常温で気体となるため、水素爆弾内部に大量に保存しておくことができません。液化すれば十分な密度を確保できますが、液化するには超低温に保つ必要があり、兵器としては実用的ではありません。また、トリチウムは前述の通り、放射性物質であるため時間とともに失われてしまいます。そのため、核融合燃料は「重水素化リチウム」という常温で固体の金属として内蔵しておくのが一般的な水素爆弾で採用されている方式です。これは、プライマリの爆発と共に発生するX線によるエネルギーでセカンダリが爆縮され、まずこの時に重水素化リチウムに含まれる重水素同士の核融合反応(D-D反応)が発生します。そしてこのD-D反応によって発生した中性子線がリチウムに吸収されると、リチウムがトリチウムへと変化します。これによって瞬間的に生成されたトリチウムと、重水素による核融合反応(D-T反応)が支配的となります。

この時には熱エネルギーと共に高速中性子が放出されますが、この高速中性子が爆弾の外殻部を構成するウラン238などの物質を核分裂させ、さらに大きな熱エネルギーを放出させるというわけです。これが「テラーウラム型」と呼ばれる核兵器になります。北朝鮮が公開した写真には超低温で液化された重水素やトリチウムを保温するためのデュワー瓶などが見当たらず、またサイズも比較的小型であるため、重水素化リチウムを用いた乾式水爆である可能性が大きいと思います。

「テラーウラム型」の水素爆弾では、セカンダリが円筒形とされる図説も多いですが、北朝鮮のこの水素爆弾は何となくアメリカのW87核弾頭に似た、球状に加工されたのセカンダリのように見えます。

・これは「本物の」水素爆弾なのか?

核弾頭に使用されている核分裂性物質としては、恐らく兵器級プルトニウムが使用されていると思われます。(高濃縮ウランは製造コストが高高いことや、北朝鮮国内でプルトニウム生産が行われているだろうという予測から)

兵器級プルトニウムは、核爆発の妨げとなる、自発核分裂製のプルトニウム240の割合が少なくなるように製造されるものですが、その含有量をゼロにすることは実質不可能であるため、少なからずプライマリ部分の核分裂性物質からは自発核分裂に伴う中性子線やガンマ線が放出されていることになります。短時間であれば大きな線量とはなりませんが、国家主席がここまで核弾頭に近づく事は考えにくいかもしれません。

実際モックアップである可能性は高いですが、過去にも軍事パレードにおいて公開された大陸間弾道ミサイルの移動発射機(TEL)がモックアップであると指摘されながらも、その後実際に大陸間弾道ミサイルの発射を行った事もあります。公開されたこの「水素爆弾」が仮にモックアップであったとしても、水素爆弾の開発に必要な構造や機器類を北朝鮮は把握しているのだと思います

実際、この写真が公開された直後に「水爆実験」は行われたわけですし、その水爆実験で用いられた水素爆弾がこの公開された写真のものであるという確証は何もありませんが、ここ最近の北朝鮮の核関連技術の向上は非常にスピーディかつ確実に行われてきているのだと思います。
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今井智大原子力

いまいともひろです。

偉大なる88年生まれ
偉大なる三重県出身 偉大なる東京都在住
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