彗星探査機「ロゼッタ」のひみつ
宇宙
2014年、新年もあけましたね!あけましておめでとうございます。遅すぎてすみません!
冬コミはありがとうございました!とても楽しかったです。ほむほむのコスプレしたり、真っ黒なゴスロリ着てみたり。
新刊の「高速増殖炉のしくみ」や東方駅名キーホルダーや幻想郷行き切符など色々と完売いたしました!
本当にありがとうございます。今年も何卒よろしくお願いいたします。応援して頂けるととっても嬉しいです。
●彗星探査機「ロゼッタ」

▲全長32メートルもの巨大な太陽電池パドルを持つ(Credit:ESA)
さて今回は今年、チュリモフゲラシメンコ彗星という呼びづらい名前の彗星の観測を行おうとしている彗星探査機「ロゼッタ」についてお話したいと思います。
開発費10億ユーロ、日本円にして1500億円ほどの「ロゼッタ」は2004年に欧州宇宙機関ESAがアリアン5ロケットで打ち上げた彗星探査機で、チュリモフゲラシメンコ彗星へと接近し、その観測と着陸を目指すという野心的な探査機です。
機体は約3000キログラムとかなり大型の機体で、約500キロの日本の小惑星探査機「はやぶさ」と比較すると約6倍ほどの重量があります。
目的の彗星へと接近するための軌道が木星軌道付近にまで及ぶため、太陽光が弱くなっても電力を供給できるよう、大型の太陽電池パドルが備わっています。
太陽電池の端から端までは32メートルもあります。新幹線電車は1両25メートルですがそれよりも長いです。
しかし木星付近にもなると地球近く等と比較して太陽電池パドルによる発電量が落ちるため、2011年から3年間「冬眠モード」へと移行し消費電力を最小限に抑えていました。
それが2014年の今年、タイマーによって再起動し、一路チュリモフゲラシメンコ彗星へと向かうこととなります。
●彗星探査機「ロゼッタ」の歴史
ロゼッタの歴史は以外にも古く、1980年代にさかのぼります。
当時外惑星を探査した、ボイジャー計画などを成功させていたNASAは次世代の惑星探査計画として「マリナーMk.II」計画を開始しました。
1962年に初の惑星探査機として、金星をフライバイ観測した「マリナー2号」の流れを組む「マリナー・シリーズ」はアメリカの黎明期の惑星探査機として知られています。火星を観測した「マリナー4号」、水星を観測した「マリナー10号」なども有名な探査機です。ボイジャー計画も当初は「マリナー11号」「マリナー12号」として計画されたものが「ボイジャー1号」、「ボイジャー2号」として引き継がれたものでした。
この後に続く大型の惑星探査機としてアメリカが計画したのが「マリナーMk.II」計画でした。これは大型の機体に原子力電池搭載などを基本とした探査機で外惑星や小天体を探査しようとするものでした。
大型の外惑星探査機をシリーズ化するという点においては大変興味深い計画であり、90年代初頭にはマリナーMk.II計画における機体として土星探査機「SOTP(Saturn Orbiter/Titan Probe)」、彗星・小惑星探査機「CRAF(Comet Rendezvous Asteroid Flyby)」が計画されました。
他の計画としては、冥王星探査計画や海王星大気観測計画などが挙げられていましたが、このうちの冥王星探査計画は現在「ニューホライズンズ」として冥王星に向けて飛行を続けています。

▲当初計画されていた「CRAF」。画像右側に原子力電池が見えます。
(Credit:NASA)
●予算不足と生き別れの探査機たち
一方その頃、欧州宇宙機関ESAは、1986年のハレー彗星にあわせた世界各国の探査機群からなる、いわゆる「ハレー艦隊」のうちの一機として打ち上げた「ジオット」がハレー彗星の観測に成功しており、貴重な科学データを取得しました。
しかしそれと同時に彗星に関するより詳細な観測データが求められる事となり、ジオットの後継として新しい彗星探査計画が持ち上がっていました。そうした流れもあり、マリナーMk.II計画において彗星探査はNASAとESA共同で行われる事となりました。
これはNASAの彗星の接近観測を行う「CRAF」計画と、ESAは彗星核の一部を地球へ持ち帰ろうとするサンプルリターン計画として「CNSR」計画の二本立てで行われていましたが、NASAは予算不足により「CRAF」計画を中止してしまいました。この時「SOTP」として計画された土星探査機は後の「カッシーニ・ホイヘンス」として結実することとなります。カッシーニ・ホイヘンスもマリナーMk.IIの機体として設計されていた頃から予算の削減の影響により機器の一部が省略されるなどして縮小されています。
これに合わせてESAはサンプルリターンを行う「CNSR」計画を、NASAがやろうとしていた「CRAF」をベースとした計画へと切り替えて独自に開発を継続していくこととなりました。しかしESAも予算不足により1993年にはこのCRAF計画は一度中止され、機体の設計などを最初からやりなおすこととなりました。その際に小型の着陸機を含む現在のロゼッタのような形になりました。
現在運用中の探査機たち、「ニューホライズンズ」、「カッシーニ・ホイヘンス」、「ロゼッタ」はもともとはひとつのNASAの次世代大型惑星探査機のシリーズだったのです。
●行き先変更
生き別れになった他の探査機と共に中止の危機を乗り越えてきたロゼッタでしたが、やっと打ち上げ予定であった2003年を目前にさらに問題が発生しました。
2002年の12月に打ち上げロケットであるアリアンVの打ち上げ失敗があったのです。能力向上型のアリアンV-ECAの初号機が一段目のヴァルカンエンジンのトラブルによって打ち上げに失敗してしまいました。
この影響でロゼッタも延期を余儀なくされ、そのため当初最終目的地として予定していたワータネン彗星への到達ができなくなってしまいました。そのため目的地をチュリモフゲラシメンコ彗星へと変更し、2004年3月2日に満を持して打ち上げられたのです。マリナーMk.IIから20年の歳月を経てロゼッタは宇宙へと飛び出したのです。

▲打ち上げを待つ探査機「ロゼッタ」。手前には着陸機「フィラエ」。
巨大な太陽電池パドルは折りたたまれています。(Credit:ESA)
●長い宇宙の旅路
ロゼッタは地球を出発してから惑星の重力を利用して加速を行うスィングバイを何度か繰り返し、彗星へと向かう軌道に乗ります。まず翌年の2005年に地球でスィングバイを行い、さらに2年後に火星でスィングバイ、そしてさらに半年ちょっと後とさらにさらに2年後に地球で2回スィングバイを行い、3年間の冬眠を経て打ち上げから10年後の今年、やっと目的地であるチュリモフゲラシメンコ彗星へと辿り着く事となります。
この間、火星の北半球や衛星を撮影したほか、小惑星シュテインスやルテティアに接近して科学観測を行うなどもしました。
冬眠からやっと目覚めたロゼッタはこの後、チュリモフゲラシメンコへと接近し、11月には着陸機フィラエを着陸させる予定です。
どうか上手く成功し、素晴らしい科学データや画像を見せてくれる事を願っております。

▲チュリモフゲラシメンコ彗星に向かって着陸機「フィラエ」を投下する「ロゼッタ」
(Credit:ESA)

▲彗星に降り立った着陸機「フィラエ」
(Credit:ESA)
冬コミはありがとうございました!とても楽しかったです。ほむほむのコスプレしたり、真っ黒なゴスロリ着てみたり。
新刊の「高速増殖炉のしくみ」や東方駅名キーホルダーや幻想郷行き切符など色々と完売いたしました!
本当にありがとうございます。今年も何卒よろしくお願いいたします。応援して頂けるととっても嬉しいです。
●彗星探査機「ロゼッタ」

▲全長32メートルもの巨大な太陽電池パドルを持つ(Credit:ESA)
さて今回は今年、チュリモフゲラシメンコ彗星という呼びづらい名前の彗星の観測を行おうとしている彗星探査機「ロゼッタ」についてお話したいと思います。
開発費10億ユーロ、日本円にして1500億円ほどの「ロゼッタ」は2004年に欧州宇宙機関ESAがアリアン5ロケットで打ち上げた彗星探査機で、チュリモフゲラシメンコ彗星へと接近し、その観測と着陸を目指すという野心的な探査機です。
機体は約3000キログラムとかなり大型の機体で、約500キロの日本の小惑星探査機「はやぶさ」と比較すると約6倍ほどの重量があります。
目的の彗星へと接近するための軌道が木星軌道付近にまで及ぶため、太陽光が弱くなっても電力を供給できるよう、大型の太陽電池パドルが備わっています。
太陽電池の端から端までは32メートルもあります。新幹線電車は1両25メートルですがそれよりも長いです。
しかし木星付近にもなると地球近く等と比較して太陽電池パドルによる発電量が落ちるため、2011年から3年間「冬眠モード」へと移行し消費電力を最小限に抑えていました。
それが2014年の今年、タイマーによって再起動し、一路チュリモフゲラシメンコ彗星へと向かうこととなります。
●彗星探査機「ロゼッタ」の歴史
ロゼッタの歴史は以外にも古く、1980年代にさかのぼります。
当時外惑星を探査した、ボイジャー計画などを成功させていたNASAは次世代の惑星探査計画として「マリナーMk.II」計画を開始しました。
1962年に初の惑星探査機として、金星をフライバイ観測した「マリナー2号」の流れを組む「マリナー・シリーズ」はアメリカの黎明期の惑星探査機として知られています。火星を観測した「マリナー4号」、水星を観測した「マリナー10号」なども有名な探査機です。ボイジャー計画も当初は「マリナー11号」「マリナー12号」として計画されたものが「ボイジャー1号」、「ボイジャー2号」として引き継がれたものでした。
この後に続く大型の惑星探査機としてアメリカが計画したのが「マリナーMk.II」計画でした。これは大型の機体に原子力電池搭載などを基本とした探査機で外惑星や小天体を探査しようとするものでした。
大型の外惑星探査機をシリーズ化するという点においては大変興味深い計画であり、90年代初頭にはマリナーMk.II計画における機体として土星探査機「SOTP(Saturn Orbiter/Titan Probe)」、彗星・小惑星探査機「CRAF(Comet Rendezvous Asteroid Flyby)」が計画されました。
他の計画としては、冥王星探査計画や海王星大気観測計画などが挙げられていましたが、このうちの冥王星探査計画は現在「ニューホライズンズ」として冥王星に向けて飛行を続けています。

▲当初計画されていた「CRAF」。画像右側に原子力電池が見えます。
(Credit:NASA)
●予算不足と生き別れの探査機たち
一方その頃、欧州宇宙機関ESAは、1986年のハレー彗星にあわせた世界各国の探査機群からなる、いわゆる「ハレー艦隊」のうちの一機として打ち上げた「ジオット」がハレー彗星の観測に成功しており、貴重な科学データを取得しました。
しかしそれと同時に彗星に関するより詳細な観測データが求められる事となり、ジオットの後継として新しい彗星探査計画が持ち上がっていました。そうした流れもあり、マリナーMk.II計画において彗星探査はNASAとESA共同で行われる事となりました。
これはNASAの彗星の接近観測を行う「CRAF」計画と、ESAは彗星核の一部を地球へ持ち帰ろうとするサンプルリターン計画として「CNSR」計画の二本立てで行われていましたが、NASAは予算不足により「CRAF」計画を中止してしまいました。この時「SOTP」として計画された土星探査機は後の「カッシーニ・ホイヘンス」として結実することとなります。カッシーニ・ホイヘンスもマリナーMk.IIの機体として設計されていた頃から予算の削減の影響により機器の一部が省略されるなどして縮小されています。
これに合わせてESAはサンプルリターンを行う「CNSR」計画を、NASAがやろうとしていた「CRAF」をベースとした計画へと切り替えて独自に開発を継続していくこととなりました。しかしESAも予算不足により1993年にはこのCRAF計画は一度中止され、機体の設計などを最初からやりなおすこととなりました。その際に小型の着陸機を含む現在のロゼッタのような形になりました。
現在運用中の探査機たち、「ニューホライズンズ」、「カッシーニ・ホイヘンス」、「ロゼッタ」はもともとはひとつのNASAの次世代大型惑星探査機のシリーズだったのです。
●行き先変更
生き別れになった他の探査機と共に中止の危機を乗り越えてきたロゼッタでしたが、やっと打ち上げ予定であった2003年を目前にさらに問題が発生しました。
2002年の12月に打ち上げロケットであるアリアンVの打ち上げ失敗があったのです。能力向上型のアリアンV-ECAの初号機が一段目のヴァルカンエンジンのトラブルによって打ち上げに失敗してしまいました。
この影響でロゼッタも延期を余儀なくされ、そのため当初最終目的地として予定していたワータネン彗星への到達ができなくなってしまいました。そのため目的地をチュリモフゲラシメンコ彗星へと変更し、2004年3月2日に満を持して打ち上げられたのです。マリナーMk.IIから20年の歳月を経てロゼッタは宇宙へと飛び出したのです。

▲打ち上げを待つ探査機「ロゼッタ」。手前には着陸機「フィラエ」。
巨大な太陽電池パドルは折りたたまれています。(Credit:ESA)
●長い宇宙の旅路
ロゼッタは地球を出発してから惑星の重力を利用して加速を行うスィングバイを何度か繰り返し、彗星へと向かう軌道に乗ります。まず翌年の2005年に地球でスィングバイを行い、さらに2年後に火星でスィングバイ、そしてさらに半年ちょっと後とさらにさらに2年後に地球で2回スィングバイを行い、3年間の冬眠を経て打ち上げから10年後の今年、やっと目的地であるチュリモフゲラシメンコ彗星へと辿り着く事となります。
この間、火星の北半球や衛星を撮影したほか、小惑星シュテインスやルテティアに接近して科学観測を行うなどもしました。
冬眠からやっと目覚めたロゼッタはこの後、チュリモフゲラシメンコへと接近し、11月には着陸機フィラエを着陸させる予定です。
どうか上手く成功し、素晴らしい科学データや画像を見せてくれる事を願っております。

▲チュリモフゲラシメンコ彗星に向かって着陸機「フィラエ」を投下する「ロゼッタ」
(Credit:ESA)

▲彗星に降り立った着陸機「フィラエ」
(Credit:ESA)
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