彗星探査機「ロゼッタ」が探る、彗星の神秘
宇宙
ほうき星を探して 彗星探査機「ロゼッタ」の機体と科学観測
2004年に欧州宇宙機関ESAが打ち上げ、2011年から冬眠に入り、3年後の2014年に先日再起動に成功した彗星探査機「ロゼッタ」
今後は目的地であるチュリモフゲラシメンコ彗星へと接近し、その観測を行います。彗星でロゼッタはどような科学観測を行い、どうやって彗星の謎を調べるのでしょうか。
今回はその内容に迫ってみたいと思います。

(Credit:ESA)▲チュリモフゲラシメンコ彗星を観測するロゼッタ。
●ロゼッタの構成
ロゼッタを構成しているのはオービター(周回機)である「ロゼッタ」とランダー(着陸機)である「フィラエ」の2つです。
「ロゼッタ」は彗星の周りを飛び回り、カメラなどの「リモートセンシング」(遠隔観測)によって彗星を観測します。「フィラエ」は「ロゼッタ」にはめ込まれるようにして打ち上げられ、彗星に接近すると「ロゼッタ」から投下されます。着陸するとドリルやセンサを直接彗星に接触させて彗星を観測します。
ちなみに日本の小惑星探査機「はやぶさ」は自律航行するオービターでありながらそのまま着陸を行ったランダーでもあるとも言えます。
今回はオービターである「ロゼッタ」に焦点を当ててみました。
2004年に欧州宇宙機関ESAが打ち上げ、2011年から冬眠に入り、3年後の2014年に先日再起動に成功した彗星探査機「ロゼッタ」
今後は目的地であるチュリモフゲラシメンコ彗星へと接近し、その観測を行います。彗星でロゼッタはどような科学観測を行い、どうやって彗星の謎を調べるのでしょうか。
今回はその内容に迫ってみたいと思います。

(Credit:ESA)▲チュリモフゲラシメンコ彗星を観測するロゼッタ。
●ロゼッタの構成
ロゼッタを構成しているのはオービター(周回機)である「ロゼッタ」とランダー(着陸機)である「フィラエ」の2つです。
「ロゼッタ」は彗星の周りを飛び回り、カメラなどの「リモートセンシング」(遠隔観測)によって彗星を観測します。「フィラエ」は「ロゼッタ」にはめ込まれるようにして打ち上げられ、彗星に接近すると「ロゼッタ」から投下されます。着陸するとドリルやセンサを直接彗星に接触させて彗星を観測します。
ちなみに日本の小惑星探査機「はやぶさ」は自律航行するオービターでありながらそのまま着陸を行ったランダーでもあるとも言えます。
今回はオービターである「ロゼッタ」に焦点を当ててみました。
●ロゼッタの機体
ロゼッタの機体を宇宙機の6つの構成要素の点で見てみましょう。

(Credit:ESA)▲熱・構造試験中のロゼッタ。
・構体系
機体サイズは2.8m×2.1m×2.0m、重量は2900キログラムです。黒いマルチレイヤーインシュレーション(MLI)で覆われています。
機体は主に2つのブロックに分割されており、「ロゼッタ」の宇宙探査機としての基本的なシステムが備わった部分である「バスサポートモジュール(BSM)」と、科学観測機器を搭載した「ペイロードサポートモジュール(PSM)」の2つに分かれています。
ペイロードサポートモジュールは彗星観測のため、機体の正面に取り付けられており、機体を適切な温度に保つための熱制御用のラジエータやルーバは太陽電池の取り付けられた側面に備わっています。これによりラジエータなどを彗星のダストなどから守ってもいます。
・電源系
主電源としては太陽電池が採用されています。機体の端から端まで36メートルという非常に大きな太陽電池が備わっています。
太陽電池には「低強度・低温タイプ(LILT)」のものが使用されており、1つのセルのサイズが、37.75mm×61.45mmとなっています。太陽電池は厚さ100マイクロメートルのセリアドープマイクロシートとよばれるガラスの一種を利用したカバーガラスにより覆われており、太陽電池を保護しています。パドルは回転可能で、探査機本体(バス)に対して太陽の方を向くことができます。
太陽電池の出力は5.25天文単位の距離で395W、3.4天文単位で850Wの出力があります。
バッテリーとしては10Ahのニッケルカドミウム電池(NiCd電池)が搭載されており、バス電圧は28Vとなっています。
・通信系
通信に用いられるアンテナは直径2.2メートルのハイゲインアンテナ(高利得アンテナ)、ミディアムゲインアンテナ(中利得アンテナ)、2つのローゲインアンテナ(低利得アンテナ)を用いています。
周波数は地球からの指令電波はSバンド、テレメトリや科学データはSバンドとXバンドを用いています。通信速度は5~20kbps(キロビット毎秒)で運用されます。送信機は28WのXバンド進行波管増幅器と、5WのSバンド・Xバンドのトランスポンダが2つ搭載されています。
・熱制御系
探査機の内部は20度に保たれるよう、ヒーターが内蔵されているほか、電力を用いない熱制御装置としてバイメタルを利用したブラインドのようなルーバー式ラジエータが搭載されています。これは膨張率の異なる2種類の金属を組み合わせることで、機体の温度が上昇すると自然にルーバーが開き、放熱効果が高まる事で探査機を冷やします。逆に機体の温度が低下すると自然にルーバーが閉まり、内部を保温してくれます。
・推進系
エアバス社製の推力10ニュートンの2液式のスラスタが24個搭載されています。主にヨーロッパの通信衛星などで多く使用されているスラスタです。推進剤には四酸化二窒素とモノメチルヒドラジンが用いられています。推進剤の重量は1670kgにも及び、探査機の半分以上の重量を占めています。
・姿勢制御系
姿勢センサとして2つのスタートラッカ、太陽センサ、航法カメラ、そして3つのレーザジャイロを搭載しており、その制御には10Nスラスタを用いている他、4つ搭載されたリアクションホイールを使用しています。
●ロゼッタの目指す科学観測
ロゼッタは彗星の何を「見る」のでしょうか。
ESAの彗星探査計画においては以下の点が観測目標として挙げられました。
・彗星核全体の特性の評価
・彗星核の動きの観測
・表面の形状や組成の分析
・彗星核の揮発性物質と難揮発性物質の化学や鉱物学、同位体における組成の分析
・彗星核の揮発性物質と難揮発性物質の物理的特性や相互関係の分析
・彗星核とコマ(一時的な彗星大気)におけるチリとガスの相互作用がもたらす彗星活動の研究
・太陽風との相互作用による変化と、太陽接近(近日点接近)によるガス放出の研究
簡単に言うと、彗星がどういった動きや形状を分析し、また彗星にはどういった物質がどのようにどれくらい含まれているか、彗星の物質のうち放出されやすい物質と放出されにくい物質はどういった関係にあるのか、そして「ほうき星」とも言われる彗星の尾を作り出す太陽風とガスの関係について調べるのです。
彗星は海王星公転軌道よりも外側の「エッジワース・カイパーベルト」や、1万天文単位~10万天文単位(太陽から地球の距離の1万倍~10万倍)に存在する「オールトの雲」がその起源とされています。
その彗星が太陽に接近すると彗星核の表面にはコマと呼ばれる希薄な大気が生み出され、さらに美しい尾(テイル)をなびかせます。彗星の大部分は氷であり、そこに含まれる物質が太陽からの熱によって一緒に放出される事でこのテイルが形作られるのです。この時放出されやすい「揮発性物質」と放出されにくい「難揮発性物質」がそれぞれどのくらい彗星に含まれているかを調べます。
そしてこのテイルはチリなどで構成される白っぽい「ダストテイル」と、電離したガスで構成される青っぽい「イオンテイル」に分かれます。このテイルは彗星の進行方向とは関係がなく、太陽風に吹き流されて太陽と反対の方向に現れます。イオンテイルは太陽風や磁場の影響を受けやすく、ダストテイルは放出された塵の軌道が変化しやすい、などの理由でそれぞれのテイルは違う方向を向いている事がよくあります。
この太陽風と彗星のガスや塵との関係はどうなっているのか、どれくらいの影響を与え合っているかなどを詳細に知ることを目指しています。
また遥か過去の太陽系創世の時代、今から38億年前の「後期重爆撃期」と呼ばれる時代にこの水や有機物を含む彗星が原始地球に降り注ぎ、海やその生命の源となったとする「パンスペルミア説」があります。
宇宙空間において低温のままその状態が保存されている彗星に接近し、さらに着陸まですることができればその探査によって、数十億年前の太陽系創世の時代の様子や、地球生命誕生の一部を知ることができるのです。
彗星や小惑星は言わば冷凍保存された太陽系の歴史であり、「ロゼッタ」はまるでタイムマシンのような存在なのです。
●科学観測機器
上記の彗星の秘密を探るべく打ち上げられたロゼッタですが、どういった観測装置で調べるのでしょうか。機体に搭載されている様々なハイテク分析装置を見てみましょう。

(Credit:ESA)▲多くの科学観測機器が搭載されている。
(Credit:ESA)
OSIRIS:オサイレス
Optical, Spectrocopic and Infrared Remote Imaging System
可視光・近赤外光・紫外光など幅広い波長域の光を観測可能な2機のカメラです。広角のOSIRIS-WAC、狭角のOSIRIS-NACの2つで構成されており、広い視野で彗星から放出されるガスやダストを観測することができます。複数のフィルタを備えており、観測波長を選択できます。
(Credit:ESA)
ALICE:アリス
ALICE Ultraviolet Imaging Spectrometer
紫外線撮像分光計です。コマとテイルに含まれているガスを分析するための紫外線分光計です。205nmの極端紫外線を観測し、彗星核から放出される水や一酸化炭素、二酸化炭素などの放出量を計測するほか、彗星表面の組成を分析します。
ほぼ同等品の装置がNASAの冥王星探査機「ニューホライズンズ」にも搭載されており、こちらは「P-ALICE」と呼ばれ、ロゼッタに搭載されている「R-ALICE」とは観測波長などが若干異なっています。
(Credit:ESA)
VIRTIS:ヴァーチス
Visible and Infrared Thermal Imaging Spectrometer
3つの観測バンドを持つ可視光・近赤外画像分光計です。うち2つがマッピング分光計で、可視光チャンネルと近赤外チャンネルに分かれています。残り1つは高分解能画像分光計となっており近赤外チャンネルのとなっています。マッピング分光計は比較的広い範囲を分光観測し、高分解能画像分光計は狭い範囲を高分解能で細かく分光観測することができます。
(Credit:ESA)
MIRO:ミロ
Microwave Instrument for the Rosetta Orbiter
マイクロ波サウンダです。GHz帯の電波を利用する観測装置です。彗星核やコマから放出されるガスの性質を観測する装置です。188GHzのミリ波と、557GHzのサブミリ波を用いて観測する事で彗星の主な主成分である水、酸素同位体、アンモニア、一酸化炭素、メタノールなどの観測を行います。また、彗星核の地下数センチまでの地下の温度を測定し、氷の昇華がもたらす彗星核への影響、氷や塵の層の厚さ、ダストやガスの放出に伴う電気的、熱的な変化を観測します。着陸機フィラエの着陸地点決定にも用いられます。
(Credit:ESA)
ROSINA:ロジーナ
Rosetta Orbiter Spectrometer for Ion and Neutral Analysis
2つの質量分析計と1つ圧力センサを組み合わせた装置群です。彗星のコマと太陽風によって作り出される電離層の組成を分析します。質量分析計は彗星の大気や電離層の成分のほかガスやイオンの平均流速や温度を観測し、圧力センサはガスの密度や速度を観測します。これにより彗星のガスやダストにどのような物質が含まれているか、また周囲の状態と電離層の関係などを分析できます。
「二重収束形質量分析計(DFMS)」
湾曲した電場と磁場に沿って運動するイオンを運動エネルギーによって振り分ける事で、どういった物質がどれくらい含まれているかを分析できる質量分析系です。ガスを分析する場合と、イオンを分析する場合とで2つのモードを切り替えての使用が可能です。
「飛行時間型質量分析計(RTOF)」
ガスを観測するガスモードではガスの中性粒子に電子に衝突させてその二次イオンを分析できるように最適化され、イオンを観測する場合は彗星由来のイオンを直接観測できるようにに最適化されるようモードを切り替えて運用されます。
「彗星圧力センサ(COPS)」
ベアード・アルバート型電離真空計と呼ばれる装置を用いて彗星由来のガスの密度や速度を分析します。気体の分子に電子が衝突することで生まれるイオンを測定することでその圧力を計測することができます。
(Credit:ESA)
COSIMA:コージマ
Cometary Secondary Ion Mass Analyser
飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)です。一次イオンビームと呼ばれる荷電粒子を観測したいダスト成分に照射し、その際に成分の表面から放出される荷電粒子(二次イオン)がドラフトチューブと呼ばれる管を通過する時間を計測することでその重さを特定し、それがどういった物質であるかを知ることができます。これにより彗星から放出されたダストに有機物が含まれているかどうかを調べることができます。
(Credit:ESA)
MIDAS:ミダス
Micro-Imaging Dust Analysis System
原子間力顕微鏡を利用したマイクロイメージングダスト分析システムです。彗星の周囲の塵環境を解析するための装置です。顕微鏡の一種で、ナノメートルサイズのダストも撮影可能な高性能顕微鏡です。ダストの体積や形状のほか、その大きさや形ごとの分布、ダストの密度の時間的な変化などを観測することができます。
(Credit:ESA)
CONSERT:コンサート
Comet Nucleus Sounding Experiment by Radiowave Transmission
電波サウンダーです。彗星核の内部を探るための電波サウンダーです。彗星に向かって照射した90MHzの電波の反射を見ることで、彗星の密度の分布などの内部構造や組成を探ることができます。電波が地下に潜っていく事で実際に彗星を割ったりしなくてもその内部構造がわかります。
(Credit:ESA)
GIADA:ジアダ
Grain Impact Analyser and Dust Accumulator
ダスト検出器です。圧電素子とレーザダイオードを組み合わせる事で、検出器内に入ってきたダストの速度や衝突エネルギーを分析出来る装置です。どれくらいの重さのダストがどれくらいのスピードでどれくらい存在しているのかがわかります。彗星のテイルから放出されるダストがその速度と大きさにどういった関係があるのか、といった研究を行います。
(Credit:ESA)
RPC
Rosetta Plasma Consortium
彗星の周囲のプラズマ環境を観測する複数の装置群です。
・イオンの質量分布や速度分布を三次元で観測する「ICA(イオン組成アナライザ)」
・彗星を取り巻いているプラズマに含まれてる電子やイオンのフラックス(密度)を観測する「IES(イオン・電子センサ)」
・彗星のプラズマの密度、温度、流速を観測する「LAP(ラングミュアプローブ)」
・太陽風と彗星のプラズマが相互作用する際に生じる磁界を観測する「フラックスゲート磁力計(MAG)」
・彗星のコマ内のガスに含まれている電子の密度や温度、ドリフト速度を観測する「相互インピーダンスプローブ(MIP)」
の5つの装置が搭載されています。
RSI
Radio Science Investigation
電波科学実験
これはロゼッタ単体の観測装置ではなく、地球の地上通信局と組み合わせる事で行われる観測です。ロゼッタに搭載された「超安定発振器(USO)」からは非常に安定した電波が照射され、彗星のコマやダストを通過させたその電波を観測することで彗星のコマやダストの研究を行う「掩蔽観測」の他、探査機の動きから彗星の重力場を分析することもできます。
様々なハイテク機器が満載のロゼッタ、様々な点から彗星を観測し、近いうちに美しい画像や興味深い科学データをたくさん送ってきてくれることでしょう。
ロゼッタの機体を宇宙機の6つの構成要素の点で見てみましょう。

(Credit:ESA)▲熱・構造試験中のロゼッタ。
・構体系
機体サイズは2.8m×2.1m×2.0m、重量は2900キログラムです。黒いマルチレイヤーインシュレーション(MLI)で覆われています。
機体は主に2つのブロックに分割されており、「ロゼッタ」の宇宙探査機としての基本的なシステムが備わった部分である「バスサポートモジュール(BSM)」と、科学観測機器を搭載した「ペイロードサポートモジュール(PSM)」の2つに分かれています。
ペイロードサポートモジュールは彗星観測のため、機体の正面に取り付けられており、機体を適切な温度に保つための熱制御用のラジエータやルーバは太陽電池の取り付けられた側面に備わっています。これによりラジエータなどを彗星のダストなどから守ってもいます。
・電源系
主電源としては太陽電池が採用されています。機体の端から端まで36メートルという非常に大きな太陽電池が備わっています。
太陽電池には「低強度・低温タイプ(LILT)」のものが使用されており、1つのセルのサイズが、37.75mm×61.45mmとなっています。太陽電池は厚さ100マイクロメートルのセリアドープマイクロシートとよばれるガラスの一種を利用したカバーガラスにより覆われており、太陽電池を保護しています。パドルは回転可能で、探査機本体(バス)に対して太陽の方を向くことができます。
太陽電池の出力は5.25天文単位の距離で395W、3.4天文単位で850Wの出力があります。
バッテリーとしては10Ahのニッケルカドミウム電池(NiCd電池)が搭載されており、バス電圧は28Vとなっています。
・通信系
通信に用いられるアンテナは直径2.2メートルのハイゲインアンテナ(高利得アンテナ)、ミディアムゲインアンテナ(中利得アンテナ)、2つのローゲインアンテナ(低利得アンテナ)を用いています。
周波数は地球からの指令電波はSバンド、テレメトリや科学データはSバンドとXバンドを用いています。通信速度は5~20kbps(キロビット毎秒)で運用されます。送信機は28WのXバンド進行波管増幅器と、5WのSバンド・Xバンドのトランスポンダが2つ搭載されています。
・熱制御系
探査機の内部は20度に保たれるよう、ヒーターが内蔵されているほか、電力を用いない熱制御装置としてバイメタルを利用したブラインドのようなルーバー式ラジエータが搭載されています。これは膨張率の異なる2種類の金属を組み合わせることで、機体の温度が上昇すると自然にルーバーが開き、放熱効果が高まる事で探査機を冷やします。逆に機体の温度が低下すると自然にルーバーが閉まり、内部を保温してくれます。
・推進系
エアバス社製の推力10ニュートンの2液式のスラスタが24個搭載されています。主にヨーロッパの通信衛星などで多く使用されているスラスタです。推進剤には四酸化二窒素とモノメチルヒドラジンが用いられています。推進剤の重量は1670kgにも及び、探査機の半分以上の重量を占めています。
・姿勢制御系
姿勢センサとして2つのスタートラッカ、太陽センサ、航法カメラ、そして3つのレーザジャイロを搭載しており、その制御には10Nスラスタを用いている他、4つ搭載されたリアクションホイールを使用しています。
●ロゼッタの目指す科学観測
ロゼッタは彗星の何を「見る」のでしょうか。
ESAの彗星探査計画においては以下の点が観測目標として挙げられました。
・彗星核全体の特性の評価
・彗星核の動きの観測
・表面の形状や組成の分析
・彗星核の揮発性物質と難揮発性物質の化学や鉱物学、同位体における組成の分析
・彗星核の揮発性物質と難揮発性物質の物理的特性や相互関係の分析
・彗星核とコマ(一時的な彗星大気)におけるチリとガスの相互作用がもたらす彗星活動の研究
・太陽風との相互作用による変化と、太陽接近(近日点接近)によるガス放出の研究
簡単に言うと、彗星がどういった動きや形状を分析し、また彗星にはどういった物質がどのようにどれくらい含まれているか、彗星の物質のうち放出されやすい物質と放出されにくい物質はどういった関係にあるのか、そして「ほうき星」とも言われる彗星の尾を作り出す太陽風とガスの関係について調べるのです。
彗星は海王星公転軌道よりも外側の「エッジワース・カイパーベルト」や、1万天文単位~10万天文単位(太陽から地球の距離の1万倍~10万倍)に存在する「オールトの雲」がその起源とされています。
その彗星が太陽に接近すると彗星核の表面にはコマと呼ばれる希薄な大気が生み出され、さらに美しい尾(テイル)をなびかせます。彗星の大部分は氷であり、そこに含まれる物質が太陽からの熱によって一緒に放出される事でこのテイルが形作られるのです。この時放出されやすい「揮発性物質」と放出されにくい「難揮発性物質」がそれぞれどのくらい彗星に含まれているかを調べます。
そしてこのテイルはチリなどで構成される白っぽい「ダストテイル」と、電離したガスで構成される青っぽい「イオンテイル」に分かれます。このテイルは彗星の進行方向とは関係がなく、太陽風に吹き流されて太陽と反対の方向に現れます。イオンテイルは太陽風や磁場の影響を受けやすく、ダストテイルは放出された塵の軌道が変化しやすい、などの理由でそれぞれのテイルは違う方向を向いている事がよくあります。
この太陽風と彗星のガスや塵との関係はどうなっているのか、どれくらいの影響を与え合っているかなどを詳細に知ることを目指しています。
また遥か過去の太陽系創世の時代、今から38億年前の「後期重爆撃期」と呼ばれる時代にこの水や有機物を含む彗星が原始地球に降り注ぎ、海やその生命の源となったとする「パンスペルミア説」があります。
宇宙空間において低温のままその状態が保存されている彗星に接近し、さらに着陸まですることができればその探査によって、数十億年前の太陽系創世の時代の様子や、地球生命誕生の一部を知ることができるのです。
彗星や小惑星は言わば冷凍保存された太陽系の歴史であり、「ロゼッタ」はまるでタイムマシンのような存在なのです。
●科学観測機器
上記の彗星の秘密を探るべく打ち上げられたロゼッタですが、どういった観測装置で調べるのでしょうか。機体に搭載されている様々なハイテク分析装置を見てみましょう。

(Credit:ESA)▲多くの科学観測機器が搭載されている。

OSIRIS:オサイレス
Optical, Spectrocopic and Infrared Remote Imaging System
可視光・近赤外光・紫外光など幅広い波長域の光を観測可能な2機のカメラです。広角のOSIRIS-WAC、狭角のOSIRIS-NACの2つで構成されており、広い視野で彗星から放出されるガスやダストを観測することができます。複数のフィルタを備えており、観測波長を選択できます。

ALICE:アリス
ALICE Ultraviolet Imaging Spectrometer
紫外線撮像分光計です。コマとテイルに含まれているガスを分析するための紫外線分光計です。205nmの極端紫外線を観測し、彗星核から放出される水や一酸化炭素、二酸化炭素などの放出量を計測するほか、彗星表面の組成を分析します。
ほぼ同等品の装置がNASAの冥王星探査機「ニューホライズンズ」にも搭載されており、こちらは「P-ALICE」と呼ばれ、ロゼッタに搭載されている「R-ALICE」とは観測波長などが若干異なっています。

VIRTIS:ヴァーチス
Visible and Infrared Thermal Imaging Spectrometer
3つの観測バンドを持つ可視光・近赤外画像分光計です。うち2つがマッピング分光計で、可視光チャンネルと近赤外チャンネルに分かれています。残り1つは高分解能画像分光計となっており近赤外チャンネルのとなっています。マッピング分光計は比較的広い範囲を分光観測し、高分解能画像分光計は狭い範囲を高分解能で細かく分光観測することができます。

MIRO:ミロ
Microwave Instrument for the Rosetta Orbiter
マイクロ波サウンダです。GHz帯の電波を利用する観測装置です。彗星核やコマから放出されるガスの性質を観測する装置です。188GHzのミリ波と、557GHzのサブミリ波を用いて観測する事で彗星の主な主成分である水、酸素同位体、アンモニア、一酸化炭素、メタノールなどの観測を行います。また、彗星核の地下数センチまでの地下の温度を測定し、氷の昇華がもたらす彗星核への影響、氷や塵の層の厚さ、ダストやガスの放出に伴う電気的、熱的な変化を観測します。着陸機フィラエの着陸地点決定にも用いられます。

ROSINA:ロジーナ
Rosetta Orbiter Spectrometer for Ion and Neutral Analysis
2つの質量分析計と1つ圧力センサを組み合わせた装置群です。彗星のコマと太陽風によって作り出される電離層の組成を分析します。質量分析計は彗星の大気や電離層の成分のほかガスやイオンの平均流速や温度を観測し、圧力センサはガスの密度や速度を観測します。これにより彗星のガスやダストにどのような物質が含まれているか、また周囲の状態と電離層の関係などを分析できます。
「二重収束形質量分析計(DFMS)」
湾曲した電場と磁場に沿って運動するイオンを運動エネルギーによって振り分ける事で、どういった物質がどれくらい含まれているかを分析できる質量分析系です。ガスを分析する場合と、イオンを分析する場合とで2つのモードを切り替えての使用が可能です。
「飛行時間型質量分析計(RTOF)」
ガスを観測するガスモードではガスの中性粒子に電子に衝突させてその二次イオンを分析できるように最適化され、イオンを観測する場合は彗星由来のイオンを直接観測できるようにに最適化されるようモードを切り替えて運用されます。
「彗星圧力センサ(COPS)」
ベアード・アルバート型電離真空計と呼ばれる装置を用いて彗星由来のガスの密度や速度を分析します。気体の分子に電子が衝突することで生まれるイオンを測定することでその圧力を計測することができます。

COSIMA:コージマ
Cometary Secondary Ion Mass Analyser
飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)です。一次イオンビームと呼ばれる荷電粒子を観測したいダスト成分に照射し、その際に成分の表面から放出される荷電粒子(二次イオン)がドラフトチューブと呼ばれる管を通過する時間を計測することでその重さを特定し、それがどういった物質であるかを知ることができます。これにより彗星から放出されたダストに有機物が含まれているかどうかを調べることができます。

MIDAS:ミダス
Micro-Imaging Dust Analysis System
原子間力顕微鏡を利用したマイクロイメージングダスト分析システムです。彗星の周囲の塵環境を解析するための装置です。顕微鏡の一種で、ナノメートルサイズのダストも撮影可能な高性能顕微鏡です。ダストの体積や形状のほか、その大きさや形ごとの分布、ダストの密度の時間的な変化などを観測することができます。

CONSERT:コンサート
Comet Nucleus Sounding Experiment by Radiowave Transmission
電波サウンダーです。彗星核の内部を探るための電波サウンダーです。彗星に向かって照射した90MHzの電波の反射を見ることで、彗星の密度の分布などの内部構造や組成を探ることができます。電波が地下に潜っていく事で実際に彗星を割ったりしなくてもその内部構造がわかります。

GIADA:ジアダ
Grain Impact Analyser and Dust Accumulator
ダスト検出器です。圧電素子とレーザダイオードを組み合わせる事で、検出器内に入ってきたダストの速度や衝突エネルギーを分析出来る装置です。どれくらいの重さのダストがどれくらいのスピードでどれくらい存在しているのかがわかります。彗星のテイルから放出されるダストがその速度と大きさにどういった関係があるのか、といった研究を行います。

RPC
Rosetta Plasma Consortium
彗星の周囲のプラズマ環境を観測する複数の装置群です。
・イオンの質量分布や速度分布を三次元で観測する「ICA(イオン組成アナライザ)」
・彗星を取り巻いているプラズマに含まれてる電子やイオンのフラックス(密度)を観測する「IES(イオン・電子センサ)」
・彗星のプラズマの密度、温度、流速を観測する「LAP(ラングミュアプローブ)」
・太陽風と彗星のプラズマが相互作用する際に生じる磁界を観測する「フラックスゲート磁力計(MAG)」
・彗星のコマ内のガスに含まれている電子の密度や温度、ドリフト速度を観測する「相互インピーダンスプローブ(MIP)」
の5つの装置が搭載されています。
RSI
Radio Science Investigation
電波科学実験
これはロゼッタ単体の観測装置ではなく、地球の地上通信局と組み合わせる事で行われる観測です。ロゼッタに搭載された「超安定発振器(USO)」からは非常に安定した電波が照射され、彗星のコマやダストを通過させたその電波を観測することで彗星のコマやダストの研究を行う「掩蔽観測」の他、探査機の動きから彗星の重力場を分析することもできます。
様々なハイテク機器が満載のロゼッタ、様々な点から彗星を観測し、近いうちに美しい画像や興味深い科学データをたくさん送ってきてくれることでしょう。
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