北朝鮮の非対称ジメチルヒドラジン製造能力について

宇宙
10 /01 2017
最近、北朝鮮による弾道ミサイルの発射が話題になっております。
ミサイルと言えばロケットエンジンを搭載し、それによって飛行するわけですから、当然燃料とそれを燃やすための酸化剤が必要となります。
北朝鮮の弾道ミサイルの多くには燃料として、「非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)」が使用されているとされています。この非対称ジメチルヒドラジンの製造が北朝鮮の国内だけで可能なのかどうかが話題となっています。
ロケット、またはミサイルの燃料には色々なものがありますが、その中でもヒドラジンは「常温で液体のまま保存が可能」であることと、「酸化剤と混合するだけで自然に発火・点火が可能(ハイパーゴリック)」という特徴があります。
そのため撃たなきゃいけないときにすぐ撃てなければならない、という性質を持つ弾道ミサイルには適した特性の燃料であるため、各国で広く使われているミサイル燃料でもあります。一方で毒性が強く、取り扱いが難しいため、製造には高い水準の技術が必要であると言われています。
北朝鮮では咸興(Hamhung)と興南(Hungnam)と呼ばれる地域での化学工業が盛んであり、UDMHもここで製造が可能ではないかと考えられています。
また、北朝鮮の科学刊行物には2013年から2016年にかけてUDMH製造に関する内容の論文が発表されていることが確認できます。

  • UDMHの酸化過程

  • UDMHと水の酸化反応

  • UDMH水溶液の電気伝導度の測定に関する研究


といった論文が発表されているようです。
前者2つはUDMHの製造過程で発生する廃液の処理に関するものであるため、背後には実際にUDMHの製造が行われていた可能性が高いとされています。
最後の1つは、ヒドラジンの水溶液に含まれる水の量によって変化する伝導率を測定することで、UDMHの品質を測定できるという技術です。
また、興南(ハンナム)の合成繊維「ビナルロン」の製造施設とされた工場は、1969年ごろのアメリカCIAによる偵察衛星画像の調査によって、塩素とアンモニアを行っている工場である可能性が高いとされました。
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▲UDMHの製造を行っているのではないかと言われているビナルロン工場の衛星画像
塩素とアンモニアは「オリンラシヒ法」と呼ばれるヒドラジンの製造工程において必要とされるため、UDMHの製造も、近年のこの工場の改修によって比較的容易に行えると考えられたそうです。
北朝鮮はこれまでUDMHを国外から輸入していたとされていますが、自国内での製造が可能になったことから、北朝鮮の禁輸措置などを行ったとしても、ミサイル開発が継続できるのではないかと言われています。
北朝鮮の学術誌で公表されたUDMH製造関連の論文

  • Kim Ryong Soh, Hong Jeong Hyun, “The Oxidation Process of 1,1-dimethylhydrazine,” Chemistry and Chemical Engineering, 2013, 2013, no.2, pp.38-40

  • Kim Ryong Soh, Hong Jeong Hyun, “1,1-dimethylhydrazine-H2O Oxidation,” Chemistry and Chemical Engineering, 2015, no.1, pp.41-42

  • Cha Seok Bong, Kim Yeong No, “A Study on Measuring the Electroconductivity of Unsymmetrical Methyl Hydrazine-water solution,” Chemistry and Chemical Engineering, 2016, no.3, pp.41-42.



参考:DOMESTIC UDMH PRODUCTION IN THE DPRK
http://www.armscontrolwonk.com/archive/1204170/domestic-udmh-production-in-the-dprk/

カナダの原子力発電所で、宇宙探査用のプルトニウム238を生産へ

宇宙
05 /19 2017

United States to ship neptunium to Canada as part of Pu-238 production
http://fissilematerials.org/blog/2017/03/united_states_to_ship_nep.html



米エネルギー省(DoE)は、宇宙探査機用の原子力電池に使われるプルトニウム238生産のため、材料となるネプツニウム237をカナダへ輸出する事になったようです。プルトニウム238は、ネプツニウム237に中性子を吸収させることで生成することができますが、この中性子照射を行うための原子炉として、CANDU型の重水炉を運転してるダーリントン原子力発電所が利用されるようです。( *˙ω˙*)و

宇宙探査機の原子力電池用のプルトニウム238は、昔生産してた原子炉が廃炉になった関係で在庫が激減するという問題に直面していました。というのも、プルトニウム238の生産に利用されていた原子炉は、主に核兵器用のプルトニウム239の同位体比の高い兵器級プルトニウム(WG-Pu)や、核融合燃料として使用されるトリチウムの生産を行っていた軍事用原子炉だったのです。そのため冷戦終結に伴って原子炉が廃炉される事となり、結果としてプルトニウム238の供給不足に陥ってしまったのです。原子力電池を搭載して2011年に打ち上げられた火星探査車「キュリオシティ」も、使用したプルトニウム238の半分をロシアから購入するなどしています。

プルトニウム238が供給不足になると、NASAの深宇宙探査計画などに影響が出るため、最近はプルトニウム238の再生産に関する研究が行われ、少量ながら生産が行われるようになってきました。これまで比較的小型の研究用原子炉のみでの生産だったのが、商用の原子力発電所でも行われるようになるというのは大変興味深いです。

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▲プルトニウム238の製造工程(Credit:DOE)

プルトニウム238を作るには、材料のネプツニウム237に熱中性子をたくさん吸収させられる原子炉が適していますので、中性子を大量に発生させやすい設計の研究用原子炉が使われていました。カナダなどで多く利用されているCANDU炉などの重水炉は、原子力発電所として一般的な軽水炉よりも炉心での冷却材による中性子の吸収が少ないため、多くの中性子を発生させやすいという特徴があります。そのため研究用原子炉とまでは行かずとも、現行の原子力発電所でもプルトニウム238を生産できるようになるのだと思います。原子力発電所の原子炉は大型であるため、多くのプルトニウム238を生産できる可能性もあります。

原子力発電所での同位体生産はアメリカだとPWRでの核兵器維持用のトリチウム生産が知られてましたが、カナダのCANDUでもプルトニウム238生産が実現されることになりそうです。

アメリカ国家偵察局がNASAに、人工衛星をプレゼント!?

宇宙
03 /08 2017
NASAと言えば、アメリカの世界最大の宇宙機関として有名ですが、実はアメリカにはNASAに加えてもう一つ宇宙機関があります。いくつかある諜報機関の一つでもある、国家偵察局(NRO)です。

NROもNASAもそれぞれ自分の衛星を運用しているわけですけれども、NROは偵察衛星の開発と運用をメインにしており、「キーホール」というコードネームの有名な偵察衛星もここの所属です。

先日、NASAが「よその省庁から余った衛星もらってきたので、搭載する科学機器を募集します!」というニュースが流れました。この衛星は科学技術プラットフォーム衛星「NSTP-Sat」としての打ち上げが計画されています。2021年頃に地球の低軌道や静止軌道、また地球と月のラグランジュポイントや、月軌道まで送り込まれるかもしれないそうです。

NASA seeks payload ideas for mystery satellite - SpaceNews.com
http://spacenews.com/nasa-seeks-payload-ideas-for-mystery-satellite/



この衛星は現在ではあまり見なくなった円筒形のスピン安定方式であり、ヒューズ・スペース・アンド・コミュニケーションズ(現ボーイング)の「HS-389」、もしくは「HS-393」と一致すると言われています。HS-389はインテルサット6シリーズに使用されるなど、商用でも広く利用された衛星バスでした。

ボーイング製の商用スピン衛星バスは2003年に打ち上げられた「e-BIRD」に使用されたHS-376を最後に使われていませんので、このNASAの衛星が打ち上げられることになれば20年弱ぶりという事になります。

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▲NASAが公開した「NSTP-Sat」の外観。(Credit:NASA)

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【祝】核融合科学研究所で重水素実験開始!

その他
03 /07 2017
岐阜県土岐市の核融合科学研究所において、大型ヘリカル装置「LHD」で、重水素を使った核融合実験が今日から開始されました!(´>؂∂`)❤

将来の実用化が期待されてる核融合炉で「磁場閉じ込め型」に主に分類される「トカマク型」と「ヘリカル型」のうち、ヘリカル型と呼ばれるタイプのものです。ねじるように配置されたコイルが特徴的です(っ`•ω•´c)かっこいい!


▲大型ヘリカル装置「LHD」(Credit︰NIFS)

そして、この装置で行われる「重水素実験」ってそもそも何なのでしょうか?

実は将来計画されている核融合炉では、燃料に重水素やトリチウムという、共に水素の同位体である物質を燃料として使用します。これらの物質は比較的核融合反応を引き起こしやすいので燃料として有望視されているのです。

核融合炉では重水素やトリチウムを高温のプラズマ状態にすることで核融合を引き起こさせます。LHDでは核融合反応そのものをたくさん引き起こしてエネルギーを得るわけではなく、重水素を使ったプラズマがどれくらい高い性能を出せるか、どういう状態になるか、核融合を引き起こしやすい状態にするにはどうすれば良いかを研究するのです。

‎未来の核融合エネルギーの研究の基礎的な部分に関わる重要な実験なのです(*♡﹃ ♡*)✨


▲「LHD」の内部。とにかくカッコイイ!!!(Credit︰NIFS)

★安全性とかについて

放射性物質であるトリチウムが生み出されるので、安全性とか大丈夫?と心配になる方もいらっしゃるかもしれませんが、全く持って安全です⸜(๑⃙⃘'ω'๑⃙⃘)⸝

‎重水素同士が核融合を引き起こすと、一定の確率でごく少量のトリチウムが生成されます。トリチウムは低いエネルギーのベータ線を出す、半減が約12年の放射性物質です。

発生したトリチウムはごく僅かな量である上に、その殆どは回収装置によって回収されますので、そこから環境に放出されるトリチウムは極めて少ない量になります(๑•̀ㅁ•́๑)✧

核融合実験施設「LHD」から重水素実験によって一年間に環境に放出されるというトリチウムの量は多くても僅か37億ベクレル程。
‎ ‎僕んちでも1個あたり10億ベクレル程のトリチウムで原子力電池を作って遊んだりしてますし、量で言えば極めて少ないのです。

10億ベクレルより少ない量のトリチウムはそもそも放射性物質として扱われないのです⸜(๑⃙⃘'ω'๑⃙⃘)⸝なので普通にネットでも買えるほか、一部の夜光時計にも使用されてます。

また核融合の時に発生する中性子線も遮蔽体という強力な壁で防げますし、プラズマの発生も装置の電源を切ればすぐ止まるので安全です。

今後も順調に研究が進むと良いですね!(っ`•ω•´c)✨

プルトニウム、実は超伝導体になる!?

その他
03 /04 2017
お久しぶりです。なんかめちゃくちゃ久しぶりなブログ更新な気がします。
今日は「核物質であるプルトニウムが超伝導体になる!」というネタをどうぞ★

超電導とは何か?

さてはて「超伝導」といえばリニアモーターカーや粒子加速器などで利用されているものです。
そもそも超伝導とは何か、と言うと電気抵抗がゼロになるという現象です。
普通のそこら辺にある電線などには電気を通しやすい銅などの金属が使われてますが、どうしても電気抵抗が存在しているのでロスが生じてしまうのです。

通常の物質では、電気を伝える電子はバラバラに動いているような状態であるため、
電気抵抗が少なからず存在する状態になってしまうわけです。
超低温の環境では電子2個が「クーパー対」というペアを組んで、その物質の電子が全て一緒くたに整った状態(コヒーレントな状態)になります。そのため、抵抗がゼロとなる超電導の状態になるのです。

電子は「フェルミ粒子(フェルミオン)」という種類の粒子なのですが、このタイプの粒子は「パウリの排他律」という制限によって全ての粒子が同じ状態になることができません。そのため、そのままでは全ての電子が同じ状態になるという超伝導は実現できなくなってしまう。しかし、電子がペアになると、そのペアは「ボース粒子(ボソン)」となります。「ボース粒子」は全てが同じ状態になることができるため、ペアとなった電子は全て整った状態になり、超伝導という状態が現れるのです。これが「BCS理論」と呼ばれるものです。

つまり超伝導というのは、量子レベルの現象が物質全体に及ぶという面白い現象なのです。
とにかくめちゃくちゃ温度を下げさえすれば超伝導状態になる物質というのはたくさんあるのですが、何度で超伝導になるか、というのは物質によって異なるのです。できればそんなに冷やさなくても超伝導になってくれる物質があれば、様々な面で応用しやすいというメリットがあります。

中には液体窒素よりも高い温度で超伝導になってくれる物質もありますが、実はこれらは前述の「BCS理論」では説明できないものもあるのです。物質の温度が40ケルビンを超えてくると、熱振動という現象によって電子のペアが壊れてしまうためです。そのため、こうした高い温度で超伝導になるという「高温超伝導体」や、有機物によって超電導が起きる「有機超伝導体」は従来の一般的なBCS理論とは異なる理論によって超伝導状態になっている「非従来型超伝導」と呼ばれるものなのです。そして、こうした特徴を持つ超伝導体は「エキゾチック超伝導体」と呼ばれたりしています。

プルトニウム超伝導体

さて、核燃料やら核兵器やらでおなじみの核物質「プルトニウム」。こちらも実は、コバルトとガリウムの合金である「PuCoGa5」、もしくはロジウムとガリウムとの合金である「PuRhGa5」といった化合物にすると、何と超伝導体になるのです!

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▲プルトニウム超伝導体「PuCoGa5」(Credit:LANL)

このプルトニウムが引き起こす超電導も、通常の超伝導体とは異なる「非従来型超伝導」です。これは特に「重い電子系超伝導体」と呼ばれるもので、セリウムやウランといった物質で生じる特殊な超電導です。

プルトニウムの原子の中には電子がいくつか存在していますが、その中でも「5f軌道」と呼ばれる場所にいる電子がこの通常と異なる超伝導の原因になっていると考えられています。「重い電子系」というのは、電子同士がお互い強く影響し合う事によって電子が動きづらい状態となり、そのために電子の重さが見かけ上大きくなってしまうという現象です。そのため「重い電子系」と呼ばれています。

普通の超伝導体は磁場があると電子のペアが作りにくくなってしまうため、基本的に「磁性」と「超伝導」は仲が悪いと考えられてきましたが、この重い電子系超伝導体の特徴は、「磁性と超伝導が共存できる」など不思議な性質があります。

またプルトニウムは放射性ですので、放置しているとどんどん無くなってしまいます。そのため超伝導体としてもその性質が時間とともに変化していったりします。

このプルトニウム超伝導体は中々、製品や技術などに応用できるものではありませんが、プルトニウムが持つ5f軌道の電子は、プルトニウム自身が温度に応じて複雑な「相変化」をする原因の一つにもなっているため、重い電子系超伝導に関する謎だけではなく、プルトニウム自身の性質を解き明かすことにもつながります。

物質には隠された色々な面白い性質があるかと思うとワクワクしますね!ヽ(=´▽`=)ノ✨

ともにゃん

宇宙開発や原子力が大好きな魔法少女(文系成人男子)です。同人サークル「東方旅客鉄道」「隙間科学研究所」の中の人。絵描いたり同人誌書いたり。たまに女装コスプレイヤー。 人工衛星・宇宙探査機/原子炉・原子力電池/核兵器・軍事(現代兵器)/ゴスロリ女装/自作PC/まどマギ/東方/無線/バイク/鉄道/創作など。日本原子力学会員

88年生まれ
三重県出身 東京都在住